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医療福祉
三重県

名張市社会的処方を実現するモデル事業

名張市社会的処方を実現するモデル事業

社会的処方とは

名張市は人口約7万5,000人。2005年に第1次地域福祉計画を市民と共に策定し、市民と共につくる地域福祉を重点政策とし、地域共生社会の実現に取り組んでいます。一方で急増する高齢者数や孤立孤独などの課題も山積みであり、多様な市民の参加・参画が不可欠です。

地域の中で困っている人と多様なケアの担い手をつなぎ、つながりを深めて課題を解決していく「社会的処方」が,地域医療従事者の間で注目されています。名張市では2021年9月から社会的処方の基本理念を散りばめたステイホームダイアリー(以下、ダイアリー)というツールを使って「人間中心性」への理解を深め、「エンパワメント」の力を実感し、あらたな「共創」を生み出すモデル事業に取り組んでいます。

ダイアリーの特徴

講義やワークショップとは異なり、まずは自分の物語を聞いてもらうことからはじまります。紙にペンで書くため、最後までじっくり話を聞いてもらえます。1週間程度を目安として返信を書き、まちの保健室等へ持参します。ダイアリーの中でお互いに書きあうコメントは、共感が最も多く、次に感謝や気づきの言葉が多く、誹謗中傷は、書かれたことがありません。

ダイアリーの効果

ダイアリーのほとんどは、「おいしい」「いい気分」「こうありたい」という市民の感性を動かした資源やできごとが掲載されています。「悩み」「悲しみ」「もやもや」も掲載されますが、日記仲間や事務局から共感のコメントが寄せられ、まちなかでばったり再会すると「最近どう?」と雑談することで、少しずつよりよい方向に向かっていきます。 資源には、位置情報のあるものは地図上にアーカイブし、話題になった事例(育児、不登校、孤立孤独、免許返納、介護、フレイル予防、終活、看取りなど)は、から社会的処方につなげていくために必要な要素を整理した事例シートにまとめています。これらの取り組みを分析し、リンクワーカーは、2つのタイプに整理しています。ダイアリーに参加する無意識の市民リンクワーカーと行政職員や専門職としてかかわる職業リンクワーカーです。市民リンクワーカーは、ダイアリーに楽しく参加してもらうことで資源や事例が集まるため、リンクワーカーの研修等は実施しません。3年間の取り組みから「市民は、市民のままで、誰かを元気にすることができる。」と実感しており、市民リンクワーカーを増やそうと躍起になる必要はありません。必要なのは行政等の主催者が、誰もが加わりたいと思えるような参加の場を開催し、活動を後押しすることです。社会的処方の中核を担う包括支援センターとまちの保健室等の職業リンクワーカーは、こうした参加の場を企画運営するスキル、リンクワーカーの役割を言語化する勉強会、ダイアリーから支援臭のしない市民目線の資源や関わり方を再認識する研修プログラムを導入しています。ダイアリーを通じて中学生から80代までの市民から、学校に行けない経験や何もすることがないという経験が、対話と傾聴と共感によって、いつのまにか誰かを元気にすると実感しています。元気のタネのほとんどは、定食屋の500円ランチ、ラジオ体操、昔ながらの小さな商店、グランドゴルフなどの身近なものやサービスで、この普通の市民感覚が何よりも効く。現在、社会的処方のモデルケースを複数抽出し、実践する勇気を後押しするような伴走体制と実践をイメージするプログラムをまとめています。これらのプロセスをまとめ、市民主体の社会的処方を取り入れたい地域や職業リンクワーカーの参考となるような手引きとして2024年度以降に公開する予定です。

DATA

発注者

名張市

担当者

西上、出野、本間